あの人が私を「リーラ」と呼ぶ、あの声を、忘れたくない。
手に入れた家族も、友も、初めて好きになった人も――力を見せたら、記憶を全部消される。バレたら、全部忘れる。
前世、私は世界を焼いた最強の魔女だった。他に方法を知らなかった、あの頃の私は。
それから五千年。神との契約の果てに、私は侯爵令嬢リーラ・ヴェインとして生まれ変わった。手に入れたこの暮らしを、失いたくない。だから決めた――私が使った魔法は、ぜんぶ猫の手柄にする。
おかげで、黒猫のノクスは『Aランクの伝説の使い魔・ノクス様』。本人は満更でもなさそうだ。私はその隣で地味な令嬢のフリをして、今日も自分の魔法を猫に押しつける。
それで、静かに暮らせるはずだった。前世の私を覚えている『何か』が、動き出すまでは。