「才能がないなら、才能がある者より多く振ればいい」
四名家の一つ、クレハルト家に生まれた少年レグルス。
兄は騎士剣の天才。
姉は魔法の天才。
父も祖父も、その名を王国に知られた実力者。
そんな家族の中で、レグルスだけが才能に恵まれず、冒険者試験にも落ち続けていた。
それでも彼は、祖父に憧れて選んだ扱いの難しい東方の武器《打刀》を手放さなかった。
ある日、いつものように刀を振っていたレグルスは、訓練場の崩落に巻き込まれる。
落ちた先は、地図にも記されていない地下遺跡。
そこで彼が出会ったのは、古代文明の叡智と女性の人格を宿す、一冊の魔導書だった。
その名はセレス。
彼女との契約によって、レグルスは黄道十二宮――《獅子宮》の契約者となる。
だが、契約したからといって、突然強くなったわけではない。
一度振れば、一度。
千度振れば、千度。
与えられたのは無敵の力ではなく、積み重ねた努力を決して無駄にしない可能性――【未踏領域】だった。
切る。
突く。
叩く。
弾く。
レグルスは最も単純な動作を、誰よりも愚直に積み重ねていく。
魔導列車が大地を走り、魔導艇が空を渡る世界。
大森林の奥、奈落の底、浮遊大陸、そして天へ届く塔には、魔王すら霞むほどの存在が待ち受けている。
同じ時代、魔族の侵攻に抗う勇者が目覚める。
しかし、これは選ばれた勇者の物語ではない。
強くなるほど老いは遠ざかり、やがて人と同じ時間さえ歩めなくなる。
それでも家族に胸を張り、自分の選んだ道が間違いではなかったと証明するために。
才能なき少年は、一冊の魔導書とともに刀を振り続ける。
いつか――星すら斬る、その日まで。