伯爵家の長女クレマンスは、妹ブランシュのために全てを譲って育った。父の借金の代償として侯爵ロドルフへ嫁いだ初夜、彼は告げる。「君を愛することはない。二年後に合意離婚し、君の妹と結婚する。世間には君の方が去ったと見せる必要があるから、君の相手役はこちらで手配した」
差し出された相手役は、夫の従弟で北方の子爵オノレ。借金で従わされた不器用なこの男は、初日に「演じない。正直にやる」と言い、脚本にない上着を貸し、家族が二十年気づかなかった彼女の牡蠣嫌いを三週間で見抜いた。二人が几帳面に付ける「逸脱の台帳」は、いつのまにか本物の記録になっていく。
やがて妹の流した不貞の噂で、夫は有責離婚へ舵を切ろうとする。クレマンスが取り出したのは、初夜に夫自身が署名した一枚の紙だった。
復讐はしない。他人の名で手紙を書き続けた令嬢が、自分の名で署名する人生を選ぶまで。