「お前のような、話も通じない娘と婚約などしていられるか」
伯爵令嬢セレーヌは、生まれつき耳が聞こえない。社交界の誰もが彼女を「人形姫」と呼び、いないものとして扱った。だから——彼女の目の前で、平気で本音を口にした。
誰も知らなかった。彼女が唇の動きだけで、そのすべてを読んでいたことを。
婚約を破棄され、妹の身代わりとして冷酷と噂される辺境伯ヴァイスのもとへ嫁がされたセレーヌ。けれどその男は、彼女に話しかけるとき必ず正面に回り込み、顔を見て、ゆっくりと口を動かした。生まれて初めて、誰かに「話しかけられた」気がした。
やがて、彼女が読み取ってきた言葉の断片が、ひとつの形に結ばれていく。
そして社交界の人々は、いずれ思い出すことになる。あの日、自分が誰の前で、何を言ったのかを。
静かに読み、静かに突きつける。ハッピーエンドです。
——全30話・完結まで執筆済み。毎日更新、6日で完結します。