島根県白潟市(旧八白郡)南八雲町に存在する無人家屋の穴に、死体を遺棄したのは『怪物』と『美人』だった。
死体には十三箇所もの刺創と無数の打撲傷が見受けられた。しかし内部所見による直接の死因は、後頭部強打により引き起こされた外傷性硬膜下血腫であった。
県警本部、捜査一課の水草直己は、死体遺棄現場付近に居住する老婆から、ホシのひとりは左顔面に怪我を負っていたという目撃証言を入手した。雪あかりに照らされた【怪物と美人】、【長い月】のキーワードを手がかりに、県内の児童交流館を訪れる。
そこでアルバイト従業員から二月九日の未明に西の空に、真冬の一定条件を満たしたときにのみ現れる低い月、ムーンピラー(月柱)を見たという証言を新たに入手する。
水草は土地鑑、敷鑑と共に借家の特殊な穴の構造を知っているのではと、現場家屋の元世帯主の長女、羽澄彩音に嫌疑(けんぎ)をかけていた。しかし羽澄にはアリバイがあった。
そんな折、水草と星野はボクシングジムの聞き込みでプロコース練習生、立待陽色が二月三日に行われたスパーリング大会で左顔面に怪我を負っていた事実を突き止める。
桐生蓮は、煌星鳥大学医学部卒後半年目の初期研修医である。出勤途中に偶然、駅のホームで助けた人物と深い関わりを持つようになる。透けた髪と、ハーフのような美しく琥珀色の瞳が印象的だった。桐生はジーンの愛称で呼び、好意を抱くようになる。
その次の歳を迎えた二月、中国地方の上空に強い寒気が流れ込んだ。二月四日から降り続いた雪により、県内各地で大豪雪となる。あの運命の日、二月九日が桐生蓮の人生を白い闇で覆いつくした。
警察は重要参考人として、羽澄彩音のアリバイ証明をした繊月工業に勤務する男、椿智武を確保する。椿の自白により徐々に事件の全貌が明かされていく。
※某出版社の新人賞選考漏れ作品です。読んでくださったたくさんの皆さま、感謝の限りです。