地球で普通に暮らしていた十九歳の星崎紬は、ある朝、見知らぬ宇宙船の艦橋で目を覚ました。目の前に広がっていたのは、東京の空ではなく、無数の星々と巨大な星雲。そして彼を「艦長」と呼ぶ、銀髪の女性型AI――セラフィエル・ヴェロリアだった。
困惑する紬に告げられた船の全長は八六〇〇メートル。豪華な居住区、農業区画、病院、工房、格納庫、二千四百機ものモビルフレームまで備えた、常識外れの超巨大宇宙船《アストレオン・ヴェロリア》。しかもセラフィエルによれば、この船は軍艦としても運用可能な性能を持ちながら、銀河の公的な軍事データベースには存在しないという。
だが、紬が求めているのは銀河の支配でも英雄の称号でもない。ただ自由に宇宙を旅し、好きな場所へ行き、うまいものを食べ、金を稼ぎ、自分だけの居場所を作ること。そのためには、まず銀河で生きていくための金と身分が必要だった。
最初の目的地は、巨大な軌道都市リラディス・セントラルリング。入港許可、船舶登録、税関、入国審査、保険、銀行口座、傭兵資格――宇宙生活は、思った以上に現実的で面倒だった。
やがて紬は傭兵として最初の護衛依頼を受ける。しかし、その仕事をきっかけに海賊との戦闘へ巻き込まれ、アストレオン・ヴェロリアの本当の力を初めて解放することになる。
さらに交易街では、交渉に長けたスペースエルフの商人モード・ラン・ヴァレスと出会い、辺境では撃墜されたモビルフレームの操縦士、狐獣人の傭兵リア・ヴァレンを救出する。二人との関係は、最初から恋愛になるわけではない。商取引、仕事、戦闘、信頼。銀河を旅する時間の中で、少しずつ距離が変わっていく。
豪華客船のような姿をした超弩級宇宙艦。人間そっくりのAI。傭兵、商人、惑星政府、企業、海賊、軍、宇宙港、辺境の人々。
これは、銀河を救う英雄の物語ではない。
自由を手に入れるために、巨大すぎる船と一緒に銀河を旅する、一人の青年の物語だ。
金を稼ぎ、飯を食い、契約をこなし、時には戦い、時には寄り道をする。そして旅の先で、彼はまだ知らない世界と、まだ知らない仲間に出会っていく。
――「銀河を支配する気はない。俺はただ、自由に旅がしたい。」
アストレオン・ヴェロリアの航行が、今始まる。その先に待つのが戦場でも楽園でも、選ぶのはいつだって自分自身だ。今日また、彼は次の星へ向かって進んでいく。