ルティナ・クワイエットはクワイエット公爵家の長女である。
サラデイン皇国は精霊の加護を受けた国。多かれ少なかれ皆、精霊の加護を持っている。
クワイエット公爵家は古くから闇の大精霊ヴァレリーの加護を受けており、ルティナの傍には生まれたときから守護聖獣ウリちゃん(黒マメシバの姿)が付き従っているぐらいに、その加護は強大なものだ。
闇の大精霊とは魅了の力を持つ。
ルティナは幼い頃に無自覚に周囲を魅了して、浄化によって魅了がとけた友人たちから嫌われてしまった。
そのため、すっかり人間不信に陥り、部屋に閉じこもってきた。
強い闇の大精霊の加護を持つ――ということで王太子殿下であるカイネルード・サラデインの婚約者に選ばれた十五歳の時、ルティナは夢を見る。
これから入学するサラデイン貴族学園でカイネルードは、ルティナとは真逆の可愛く明るく人気者である、隣国から留学に来た姫君のステラ・エルナンに心を奪われる。
嫉妬に身を焦がしたルティナは、魅了の魔法をカイネルードに使用しようとして失敗し、その罪を断罪されて投獄されて、ルティナの持つ力は危険だという理由で処刑をされる。
そんな未来はおそろしいのでできることなら穏便に、婚約破棄に辿り着きたい。
カイネルードはルティナの友人で幼馴染だった。
それ以上のことは、望んだりはしたくなかったのに。
そんなルティナの気持ちを知らず、カイネルードはルティナにぐいぐい近づいてきて──。