『うん。配信も悪くない。料理も性に合ってる』
地球上にダンジョンと呼ばれる領域が発生するようになってもうすぐ30年。
人々はダンジョンと共存するのが当たり前となった。ダンジョン探索などの様子を配信するダンジョン配信という文化も定着している。
『Downer
Jazzy
Cooking』
そんな時代に始まった、無数にあるダンジョン配信の一つだ。
務めていた食堂が閉店し、仕事がなくなった青年セイジが始めたものだ。
面倒くさがりで、ダルいが口癖の彼が、仕事がなくなったあと怠惰を満喫しすぎている自分に危機感を覚えて始めたチャンネルである。
ダンジョンで手に入る食材――通称『ダン材』を現地で調達し、ダンジョン内調理する。本人はそれをメインコンテンツにしているつもりだ。
ただ、雑談が少なく、食材調達の様子もほとんど無言だし、モンスターを倒す時も腕前は良いのに撮れ高を気にしない。料理する時も喋らなければ、完成品を食レポせずに黙々と食べている。荒らしやアンチの突撃があっても気にしない。
そんな彼の配信は、ファンからダンジョン配信ASMRなどと呼ばれるようになり、コア層に定着していく。
時々、プライベートな有名配信者や有名探索者と遭遇し、料理をごちそうしたり、なりゆきで人生相談に乗ってしまったり。
そうこうしているうちに、チャンネル登録者数の割には有名人の割合が多い謎のチャンネルになっていくのだが、本人はさして気にせずテンション低めにマイペースにやっていく。
これはマイペースなダウナーお兄さんによる『新たな在り方を模索する現想譚』。