「跡継ぎは、この子にする」——白い結婚のまま三年。わたくしが夫の家でしていたことは、たったひとつでした。
七つになる継子のニルスは、何を食べても吐いてしまう子でした。医師は匙を投げ、屋敷の誰も匙を握らせようとしません。わたくしは三年かけて、この子が食べられるものを、ひとつずつ帳面に書きためました。四十七あります。
離縁を告げられた日、わたくしはその帳面を卓に置いて申し上げました。「あの子の食事は、明日からご自分で」
夫は、一度も開きませんでした。
——けれど雨の夜、裸足のニルスが、わたくしを追いかけてきたのです。
置いていかれた伯爵家では、誰もあの子に何を食べさせればいいか分かりません。やがて、あの家の食卓に着いた者が、次々に食べられなくなっていきます。
全30話・第1部完結/ハッピーエンド。声を荒げない静かなお話です。
※ざまぁは遠景で、主人公は誰も責めません。恋愛はゆっくりめ。「誰にも数えてもらえなかった仕事が、ちゃんと報われる話」がお好きな方へ。