私の剣は、喋らない。
この世界では、それは異常だ。冒険者たちの剣は皆、前の持ち主の記憶を宿し、戦い方を教えてくれる。剣の声に導かれ、彼らは深層を目指す。
でも私の剣――「空虚の剣」には、何も宿っていない。
名前はセリア・アッシュフォード、17歳。2年間の記憶がない。
目覚めたとき、ギルドカードには信じられない記録が刻まれていた。500階層到達――人類史上最高記録は450階層。誰も信じない。
「詐欺師」
街で囁かれ、冒険者たちは冷笑する。
でも、試しに1階層へ潜ったとき、身体が勝手に動いた。記憶はないのに、身体はすべて知っている。ゴブリンを一瞬で倒し、迷路を迷わず進む。
……私は、本当に500階層へ行ったのか?
20階層に到達した瞬間、記憶の断片が蘇った。
仲間がいた。4人の仲間。一緒に300階層まで到達し、そして別れた。
「セリアだけが行くべきだ」
空虚の剣だから。剣に支配されないから。
一人で500階層へ――。
でも、何があったのか。まだ思い出せない。
夢に現れる光景。深層の通路。10万本の剣。そして、囁き声。
「あと7人」
記憶を取り戻すため、私は再びダンジョンへ潜る。1階層ずつ、進むたびに記憶が戻っていく。
仲間は今、どこにいるのか。500階層で私は何を見たのか。
剣が喋らない世界で、ただ一人。空虚の剣を手に、私は真実へと向かう。
――人は剣に還る。その意味を、まだ私は知らない。
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