※この作品には虐待や暴力、心の傷などセンシティブな描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。
かつて日本で、名前すらまともに呼ばれずに育ち、
親の手を離れ、図書館と路上を彷徨っていた少女がいた。
唯一「まーちゃん」と名乗る少女だけが、自分の居場所だった。
ある日、「まーちゃん」にビルから突き落とされた。
何もかもが終わったはずのその瞬間、少女は異世界に転生する。
新たな名はアニエラ。
生まれたのはルーンブルクという小国の王女として。
だが、幼くして人質に出され、敵対国カリシュタで待っていたのは、
「人間」ではなく、「奴隷」としての人生だった。
やがて、カリシュタがヴァレンヌに滅ぼされ、
アニエラは戦勝国の王、オリヴィエのものとなる。
オリヴィエは、他者の心が読めてしまう『魔眼』を持ち、
その力ゆえに、人々から恐れられていた。
感情の抜け落ちたアニエラと、すべてを読みすぎたオリヴィエ。
どこか欠けた者同士が、やがてたどり着いた場所は――。
世界は広く、多くの人で満ちているようでいて、
アニエラにとって、最初からずっと、
“世界にいるのは二人だけだった”。
まーちゃんと自分だけが、生きていた。
それだけが、事実だった。
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