魔力、測定不能。
ゼロですらない。測定不能。
聖女候補の試験で「機器の故障かと思いました」と言われた少女リーゼには、前世の記憶がある。
日本で食品科学者をしていた二十八歳。究極のだしを追い求めて死んだ、ただの料理バカだ。
異世界に転生して十二年。魔力は相変わらずゼロ。
でも、料理の腕だけは誰にも負けない。
聖女にはなれなかったけれど、代わりに帝都魔術学院の厨房で働くことになった。
――正直、厨房の方が百倍嬉しい。
ところが、彼女の作る料理には不思議な力が宿っていた。
食べた人の傷が癒え、疲れが消え、時には涙が溢れる。
鍋の中身が、金色に光る。
魔力は使っていない。ただ、食材の声を聞いて、丁寧に作っただけ。
それは百年前に禁じられた失われた魔法――「エッセンス」だった。
味覚が鋭すぎて何も食べられない氷の皇子。
プライドが高すぎて学院の食事が喉を通らない侯爵令嬢。
百年前の主人を待ち続ける皮肉屋の老猫。
気がつけば、鍋ひとつで帝国を揺るがしていた。
これは、聖女になれなかった少女が、料理で世界を変える物語。