「声もまともに出せない女が、王妃になれると思っていたのか」
舞踏会の夜、王太子クラウスは婚約者アイリス・ルーンフェルトを、数百人の貴族の前で切り捨てた。
幼い頃のトラウマから人前では声が出せない彼女を、「華がない」「暗い」「王妃に向かない」と断じて。
翌日には別の令嬢をエスコートし、アイリスは国境近くの辺境離宮へ追放同然に送られた。
——けれど、誰も知らなかった。
彼女が歌うたびに、枯れた花が咲き、傷が癒え、荒れた大地が蘇ることを。
彼女の声が、この世界の魔力を調律する、失われた伝説の力——"歌姫"の力であることを。
そして、彼女が王都を離れたその日から、王国の魔力均衡が静かに崩れ始めていたことを。
辺境の離宮で一人歌うアイリスの声を、偶然耳にした者がいた。
帝国第二皇子、レオンハルト。
戦場では"白銀の死神"と恐れられる男が、その歌声を聞いた瞬間、暴走しかけた魔力が嘘のように鎮まった。
「……やっと見つけた」
彼はただ一人、声が出なくても急かさず、出るまで待ち続けた。
笑わず、蔑まず、ただそこにいてくれた。
歌姫の存在が世界に知れ渡るにつれ、各国が動き始め、そして今さら気づいた元婚約者が膝をついて懇願する。
「戻ってきてくれ」と。
でも、もう遅い。
「私の声を好きだと言ってくれたのは、あなただけでした」
声の出せない令嬢は、歌によって世界を救い、愛を知り、自分の居場所を見つける。
ざまぁ・溺愛・感動、三つ揃った純愛ファンタジー。
読後感を大切にした、心が温かくなる物語。