「お前の家は徳川の末裔だ」――物心ついた頃からそう聞かされてきた。だが俺の家は、かつて天下を治めた将軍家の子孫とは思えないほど普通の、何の変哲もない庶民の家庭だ。
事故に遭い、気を失った俺が目を覚ますと、そこは1853年7月8日。史書に刻まれた、日本の命運が変わった日だった。目の前の海に浮かぶのは、教科書で何度も見た黒船。俺は幕府に仕える下級旗本の若者として、この時代に存在していた。
この先に何が起きるか、俺は知っている。幕府は動揺し、改革に遅れ、政争に敗れ、薩長に主導権を奪われ、戊辰戦争の末に滅びる。徳川家は江戸城を明け渡し、没落し、俺の生まれた現代まで続く「負け続き」の歴史が始まる。
だが俺が知っているのは「何故負けたか」だ。ならば一つずつ、潰せる。
海軍を作る。財政を立て直す。情報戦で先手を取る。朝廷と諸藩を動かす。幕府を内側から変え、開国と近代化を薩長より先に成し遂げる。徳川を、滅びる側から日本を導く側へ。
これは、没落した末裔が先祖の失敗をやり直す物語だ。ただし歴史は、俺が思うよりずっと、動かしにくかった。