その世界では人類と魔族の戦争が途方もない期間続いていた。
数多の命を犠牲にして勝利を納めたのは人類サイドだった。
魔王を討ち取り、戦争を終結させた勇者の名は【ノルバ・スタークス】。
人類は勇者ノルバを讃え、その名は歴史に刻まれた。
しかしノルバは魔王討伐後からパタリと世界中どこにも顔を見せなくなり、世間には名前だけが広まっていた。
彼はどこに行き何をしているのか。
ノルバは王より生涯生活に困る事がない程の金と豪邸を与えられ、そこで暮らしていた。
生活の全ては使用人が行い、一日中遊んで過ごす事が出来る環境。
だがそれは誰もが憧れる暮らしなどではなかった。
表向きの理由は勇者への褒美。裏の理由、それは勇者を外に出さない為の処置。魔王を倒す程の力が自身に向く事を恐れた王による迫害だった。
何不自由ない暮らし。だが真の自由もない。
ノルバは王の思惑には気付きつつも人々の事を想い、敷地内から出る事はなかった。
そして16年の時が経った。あまりにも長い月日はノルバの心を蝕んだ。
何を思い、何の為に生きているのか。
死んだ方がマシとすら思える生活だったが、ノルバを迫害した王の急死により、そんな生活は突如として終わりを告げた。
新王の名の元、自由を得たノルバ。
全てを持ちながら、全てを失った元勇者の第2の人生が幕を開ける。