「カトリーナが寂しがるから」
婚約して二年。劇場でも、遠乗りでも、花祭りでも、婚約者フレデリックの隣にはいつも幼馴染のカトリーナがいた。伯爵令嬢エステルの席は、柱の陰の補助椅子。
王宮の晩餐会の席次を、五年前から名前を出さずに決めてきたのは、エステルだった。
誰と誰を隣にすれば話がはずむか。誰を誰から遠ざければ揉めないか。二百人の名札を並べて、ぴたりと収まったとき、胸の奥で小さな鈴が鳴る。その音を聞けるのは、自分だけのはずだった。
慈善晩餐会にまで「カトリーナの同伴者として行く」と言われた日、エステルは静かにうなずいた。
婚約者の隣には、幼馴染さんの名札を。
そしてわたしの名札は――三年前から「誰がこの席を決めているのか」を探していた、王弟アルベルト殿下の隣に。
すり替えられた名札、隣国の大使の晩餐、五百人の大祝宴に仕組まれた罠。
名札一枚で王宮を守る席次係と、「待つのは得意だ」と言う王弟殿下の、文庫一冊ぶんの恋。