大国ディオメシア。
そこに、一人のかわいらしい王子がいた。
名はディルクレウス。
後に“冷徹の悪王”と呼ばれる男である。
兄や姉に囲まれ、穏やかに生きていたはずの彼は生まれた時から、逃れられない秘密に縛られていた。
出生、戦争、そして【王家の祝福】……
それは、やがてすべてを蝕む。
家族を壊し、民を傷つけ、そして彼自身を歪めていく。
地獄を積み上げた彼に降りかかったのが「結婚」だった。
戦争をするための、軍事目的の政略結婚。
だが現れたのは、ロマンスとはかけ離れたじゃじゃ馬娘だった。
「私より弱いやつに嫁ぐなんてゴメンだね」
反発から始まった関係は、やがて彼に“愛”を教える。
――だからこそ、彼は変わった。
裏切り、しがらみ、運命。
すべてに押し潰されながら、なお手放せなかったもの。
愛を知った男が、愛ゆえに完成された。
客観的には狂ったと表現される方向で。
これは、ひとりの王が悪へと堕ちるまでの物語。
あるいは、王として立とうとした青年の成長譚。
もしくは、とある男の復讐譚。
そして、自らの破滅を選ぶまでの記録。
穏やかで、血生臭く、戦い続けた人生譚。
「我に罪(あい)を教えさえしなければ、平和だっただろう」