名物のためなら、主家も、天下も利用する。
土くれ一つに、城ひとつの値をつける戦国一の数寄者《すきしゃ》——松永久秀。
その天下取りの元手は、一人の少年から買った「未来」であった。
【あらすじ】
天文九年(一五四〇年)、摂津。三好長慶の一祐筆にすぎぬ松永久秀の前に、奇妙な少年が現れる。水江朔《みずのえ
さく》。前世の記憶を持ち、これから五十年の歴史と、失われた技術のすべてを識る者。
朔は、その知識を「売る」と持ちかけた。初め二十点、月に一点。品書きは無料、値を決めるのは朔、買うか買わぬかを決めるのは久秀。——互いの首に、縄を掛け合う商いである。
こうして、梟雄の「買い物」が始まった。銀の絞りよう、眠れる鉱脈、飢饉の底と明け、名物の在処、そして己が死にざままで。久秀は一点ずつ数えながら、雌伏の底から天下の階《きざはし》を昇ってゆく。狙うはただ一つ、土くれに城の値がつく、茶の湯の名物である。
「作り話のほうが、面白いではないか」
後の世に「爆弾正」と嗤われ、将軍殺し・大仏焼きの大悪人とされた男。だがその実像は——理を愛し、欲を数え、ただ美しいものにだけ焦がれた、一人の商人《あきんど》であった。
雌伏、飛躍、権威、運命、孤影、そして伝説。天正五年、信貴山。名物・平蜘蛛《ひらぐも》を抱くその日まで駆け抜ける、下剋上の物語。
——これは、その男が生涯を賭けて行った、たった一つの「買い物」の物語である。
【ご案内】
・前作『摂州水江村始末』の続編ですが、本作から読み始めても支障なくお楽しみいただけます。
・史実("梟雄"松永久秀=実は有能な忠臣、という近年の研究)を踏まえた歴史改変もの。池波正太郎に倣った短文の筆致で綴ります。