かつて別の世界に生きた記憶を持つジョセフ・ラザフォードは、オキシジェン帝国に生を受けた。名門ラザフォード公爵家の庶子として。
数千万人に一人という割合で、ギフトという人外の能力を持つものがいる世界。そこでジョセフに与えられたギフトは〈燃素(フロギストン)〉。元素の発見もされていない世界だが、ジョセフは前世の知識でそれを知っている。地球では存在を否定されて久しい、燃える元素。しかし、ジョセフが就いた職は帝国軍の輸送部隊の小隊長。戦場の英雄とは程遠い、地味で泥臭い仕事だった。庶子という立場でギフトを持っているとなると、爵位の継承に巻き込まれるため、敢えて隠しての生活だった。
「荷を届けるのが仕事だ。それだけでいい」
そう思っていたが、皇位継承争いが帝都を揺るがし、軍は三つの派閥に分かれ、大陸の均衡が崩れ始める。伝統派貴族からは家柄ゆえに取り込もうとされ、セシリア皇女の目には留まり、正体不明の敵には命を狙われる。
荷台を動かすだけのつもりが、気づけば歴史まで動かしていた。