深夜残業、理不尽な上司、積み重なる疲労――。
過酷な現代社会に心身をすり減らした三十五歳のサラリーマンは、ある夜、居眠り運転のトラックに轢かれ、その灰色の生涯に幕を下ろした。
（――来世があるなら、絶対に平穏に、穏やかに生きてやる……）
そんな、ささやかな願いを胸に。
次に彼が目覚めた時、聞こえてきたのは自らの産声。
どうやら、記憶を持ったまま赤ん坊に転生するという、夢のような展開を引き当てたらしい。
「今度こそスローライフを！」と歓喜したのも束の間、彼はすぐに気づいてしまう。
自分の生まれた家が、どうも普通ではないことに。
聞こえてくる名は「土御門」。
世話をしてくれるのは、体温のない精巧な人形――式神。
ここは、科学の裏側で人知れぬ異能の者たちがうごめく、現代日本。
そして彼は、この国の全ての異能者を束ねる名門中の名門・土御門宗家の、待望の跡継ぎとして生を受けてしまったのだ。
「どうか平凡な能力でありますように！」
そんな彼の悲痛な願いも虚しく、生後七日に行われた霊力測定の儀式で、彼は観測史上誰も見たことのない規格外の力を示してしまう。歴代当主の記録を赤子の身で遥かに凌駕し、計測用の霊石をその情報量の負荷で破壊。
一族はその結果に狂喜乱舞し、彼を「安倍晴明の再来」「神の子」と崇め、伝説の名である『晴明（はるあき）』を授ける。
（やめてくれ……！俺が欲しいのは、伝説の名でも最強の力でもなく、安らかな睡眠と休日なんだ……！）
彼の魂の叫びなど、誰にも届くはずもなく。
過剰な期待、一族内の嫉妬と陰謀、そして彼の誕生を察知し、水面下で動き始める世界の裏組織――。
これは、平穏な不労所得ライフを夢見た“元”サラリーマンが、最強の転生陰陽師として、否応なく世界の中心へと押し出されていく物語。
果たして晴明は、そのチートすぎる能力（と前世の処世術）を駆使して全ての面倒事を回避し、念願のスローライフを手にすることができるのか！？
カクヨムにも掲載してます。