竜は、己で火を作ることが出来ない。火を生むのは喉の奥に棲む小さな群れ「火株(ひかぶ)」。株は親竜から仔竜へ口移しで継がれ、竜自身よりも長く生き続ける。
山あいの果て、楢峡(ならかい)の村。岩盤を温めて湯を湧かせ、雪を融かし、凍てつく谷に春を呼ぶのは、村でただ一頭の老竜ミゾレ──十五歳のカヤが、物心ついたときから世話をしてきた竜だ。そのミゾレの火が、百五十二年目にして細り始めた。火が絶えた竜は、ふた月で死ぬ。ミゾレを救う道は、ただ一つ。カヤ自身が、竜医になることだった。
銀二十二枚を懐に、カヤは王都への十日の道を歩き出す。だが竜医師会は、師も持たず推薦人もいない田舎娘に門を開かなかった。流れ着いた先は、下町・窯裏(かまうら)の路地裏診療所。診察料は銅三十文、看板もなし。「藪」と呼ばれる偏屈な師匠のもとで、カヤは竜の立ち方から病を読む目を磨いていく。
やがて都を、二十年ぶりの竜疫「灰咳(はいがき)」が襲う。帳簿は病を読まず、制度は竜を救わない。処分名簿に載せられていく竜たちを前に、カヤが手を伸ばすのは、絶えかけた禁術──よその竜の強い火を株分けして継ぐ「継ぎ火」。
これは、果ての村の少女が、竜を診て、火を継ぎ、いつか都一の竜医──「継ぎ火の竜医」と呼ばれるまでの物語。