二〇二六年。
ネット通販と転売市場の歪みに寄生していた男は、配送遅延と購入者対応の果てに意識を失った。
目覚めた先は、二〇〇一年の東京。
身体は角川書店社長室秘書課の女、篠宮怜子(しのみや・さとこ)。
紙の雑誌がまだ強く、書店の棚が文化を決め、インターネットが“販促の補助”に過ぎなかった時代。
だが彼女(おれ)は知っている。
電子書籍。動画配信。SNS炎上。限定版商法。プラットフォーム依存。転売市場。物流崩壊。
未来の出版業界を待つ、無数の歪みを。
権限はない。
味方もいない。
あるのは、二十五年後の失敗を知る記憶と、数字で人を刺すのに向いた秘書の顔だけ。
「届かなかった作品を、売れなかったことにしないでください」
これは、未来で市場の歪みに寄生していた男が、
過去でその歪みを潰そうとする、平成出版改革録である。