冬の茶は、すぐに冷める。
けれど、冷えたのは茶ではなく、
あなたの言葉だった。
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「薬草遊び」
「茶飲み友達」
「役に立たない女」
笑い声の混じる広間で、
私は静かに離縁状を受け取った。
湯気は細く揺れ、
やがて見えなくなる。
まるで、
あの日の私の居場所のように。
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あなたは知らなかった。
眠れぬ商人に、
胃を痛めた老侯に、
長旅に疲れた使節に、
どの葉を、
どの温度で、
どの順番で淹れていたかを。
知らなかった。
香りひとつで、
人の怒りが和らぐことを。
一杯の茶で、
止まりかけた交渉が動き出すことを。
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だからあなたは捨てた。
温室を。
薬草を。
積み重ねた季節を。
「雑草だ」と笑いながら。
乾いた土の匂いだけが、
冬空に残った。
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翌月。
港から船が消えた。
商会は扉を閉ざし、
招待状は途絶え、
屋敷から人の気配が消えていく。
静かだった。
恐ろしいほどに。
崩壊とは、
雷のようには来ない。
誰も茶を飲みに来なくなる。
それだけで、世界は終わる。
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今、私は隣国の王宮にいる。
朝露を含んだミント。
眠りを守るカモミール。
月明かりに香る銀月花。
私は今日も、
誰かのために茶を淹れる。
戦を避けるために。
涙をこぼさぬために。
人が、人でいられるように。
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「本当の茶飲み友達ですね」
そう笑う声に、
私はようやく気づく。
大切なのは、
誰に価値を決められるかではない。
誰の心を、
温められたかだ。
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春の庭園。
白い湯気が空へ昇る。
もう、
この茶が冷めることはない。