農業改良普及員として二十二年、過疎に追い詰められた農村を渡り歩いた。
土を見て、水を見て、農家の話を聞いて——それだけをやり続けた四十二歳が、心臓発作で倒れた。
気がついたら、魔法のある異世界の庶子に転生していた。
与えられたスキルは「土壌感知」。土の状態を感覚でつかむだけの、戦闘には一切使えないハズレ能力。
配属されたのは辺境伯領の最も奥まった分領——連続不作で人口が半分以下に減り、残った住民が今年中の廃村を話し合っている集落だった。
「あ、これ全部知ってる問題だ」
土は痩せているが、死んではいない。水路は壊れているが、水源はある。
住民が信じられなくなっているのは、土でも水でもなく、自分たちの可能性だ。
前世でずっとそれを見てきた。解き方も知っている。
チートはない。魔法も使えない。あるのは二十二年分の農業知識と、農家と膝をついて話してきた経験だけ。
それで十分だと、俺は思っている。
これは、異世界で「村おこし」を始めた元・農業改良普及員の話です。
戦闘なし。無双なし。ただ、人と土が少しずつ、立ち直っていく。