公爵令嬢リリアーナ・アルヴェインは、ずっと思っていた。
――普通の生活がしたい。
王国の政治と軍事の中枢を担うアルヴェイン公爵家の娘。
誰もが息を呑むほどの美貌を持ち、淑女教育は完璧、剣を握れば騎士団長すら圧倒する。周囲は彼女を「完璧なる令嬢」と讃えるが、本人にそんな自覚はまったくない。
リリアーナにとって、それらは全部“当たり前”だった。
身だしなみを整えるのも、相手に気を遣うのも、危ない相手を素早く制圧するのも、ただ普通に生きるための所作にすぎないのだから。
そんな彼女は、ある日第一王子から婚約破棄を言い渡される。
周囲が騒然とする中、リリアーナだけは歓喜した。
これでようやく、静かで穏やかな日常が手に入る――はずだった。
だが、街へ出てパンを買えば「市場への介入」と誤解され、困っている人を助ければ「人心掌握」と深読みされる。さらには軽く剣を振るっただけで、騎士たちから“剣聖”として畏怖されてしまい……?
これは、ただ普通に暮らしたいだけの絶世の公爵令嬢が、無自覚のまま周囲を魅了し、王国を揺らし、それでも平穏な日常を諦めない物語。