月間残業、百五十時間。
ブラック企業の社畜・佐藤愛は、過労死した上に適当な女神によって異世界へ放り出された。
転生先は、借金まみれの没落男爵家。
領地は荒れ放題、家計は火の車、さらには本人も「魔法の才能ゼロ」の判定。
女神いわく「絶望のどん底」の環境……。
しかし、八歳の令嬢リリアとして目覚めた彼女は、感涙に震えていた。
「上司の罵倒がない!
サービス残業もない!
横になって三時間も寝れる!?
ここは天国ですか……!?」
リリアは、前世で身につけた悲しき習性『ショートスリーパー』を武器に、誰にも邪魔されない深夜の「サービス残業(自主練)」を開始する。
魔法の才能がない?
ならば、人が寝ている時間に一万回繰り返せばいい。
一晩中、泥のように魔力を練り、一ミリ単位の制御をデバッグ。
一日で最強にはなれなくても、一ヶ月後には誰も真似できない「精密機械のような魔法」を、社畜の意地で作り上げていく。
さらには深夜の開拓作業中、罠にかかった黒い仔犬(実は伝説の厄災獣)を救出し、「残業中の癒やし担当」として雇用。
異常なまでの集中力で黙々と荒野を耕し、特産品を開発し、借金を爆速で返済していくリリアの姿に、周囲の勘違いは加速する。
「リリア様!
もう三日もほぼ徹夜ではありませんか!
私たちのためにそこまで……!」
周囲は「命を削って領地を救う聖女」だと号泣するが、本人は至って元気。
「三時間も寝ればフルチャージですよ?
さあ、次のタスクを片付けましょう!」
モフモフの相棒が「おい、いい加減寝ろ」と服を引っ張る中、前世の社畜スキルで「自分のための仕事」を謳歌する幼女が、気づけば王国一のホワイト領地を築き上げる――。