嫌だと口にする権利を、アデリナは忘れていた。
王宮礼法局で働く侯爵令嬢アデリナは、王妃の慈善会や外交夜会を陰で支えていた。
離婚した女性の席を守り、未亡人の評判を守り、誰かが傷つかないよう礼法を整える日々だった。
けれど王妃は、そんな彼女に微笑む。
亡妻を失った伯爵を、あなたなら支えられるでしょう。
それは善意の言葉で、アデリナの望みを尋ねない命令だった。
誰も彼女が傷つくとは思わない。
聡明だから分かる。
聞き分けがいいから受け入れる。
そう信じられてきた彼女は、最後の慈善会の席次を整える。
そして、礼法局の鍵と辞表を置いて王宮を去る。
王妃の善意を美談に変えていたのは、誰だったのか。
アデリナが守っていた椅子の意味を、王宮はいつ知るのだろう。