「生活魔法しか使えない、学院にも通っていない貧乏騎士爵家の行き遅れ令嬢に、伯爵家の長男の家庭教師が務まるとでも?」
それは、家庭教師の選定試験に臨んだイスズ・エルミオへ向けられた言葉だった。
バルカン帝国の片隅にある、貧しい騎士爵家。
二十二歳になったイスズは、学院へ進むこともできず、家族を支えるために自分の人生を後回しにしてきた。華やかな社交界とも、輝かしい未来とも無縁のまま、この先は目立つことなく、静かに暮らしていくつもりだった。
そんな彼女のもとへ届いたのが、帝都の名門伯爵家からの一通の書状だった。
――伯爵家長男の家庭教師、その選定試験を受けてほしい。
なぜ、自分が?
学院を卒業したわけでもない。家庭教師の経験もない。魔法だって、貴族社会では軽く見られている生活魔法しか使えない。
それでも試験会場へ向かったイスズが出会ったのは、伯爵家長男、十歳の少年レオーネだった。
魔力量は少なく、学問も剣術も不得手。これまで何人もの教師に能力を測られ、そのたびに「才能がない」と判断されてきた少年だった。
けれど、イスズは彼を最初から「才能のない子」とは見なさなかった。
「どうして?」
「なぜ?」
何気なく口にする小さな疑問こそ、学びの始まりだと信じていたからだ。
家庭教師の経験すらなかった令嬢と、学ぶことを諦めかけていた少年。
イスズの型破りな授業は、やがてレオーネの中に眠っていた「もっと知りたい」という心を呼び覚ましていく。
そして、一人の少年の可能性を育てるうちに、イスズ自身もまた、ずっと諦めていた自分の人生と向き合うことになる。
これは、家族のために自分の人生を後回しにしてきた一人の女性が、思いがけない出会いによって、もう一度、自分自身の未来を歩み始める物語。
そして三年後――。
立派な青年へと成長したレオーネは、かつて自分を導いてくれた家庭教師を探し出す。
「先生。……僕と結婚してください」
これは、家族のために自分の人生を後回しにしてきた一人の女性が、初めて一人の女性として愛され、自分自身の幸せを掴んでいく物語。
R15, 残酷な描写あり, 異世界転生, ほのぼの, 女主人公, 西洋, 魔法, ハッピーエンド, 身分差, 年の差, 恋愛, スローライフ, 姉弟愛, 不遇, 育成, 貧乏, 年下男子, 年上女性