「その聖剣、まだ直っていません」
王宮工房で“灰かぶり”と呼ばれる三等修復士ルカ・グレイ。
彼のスキル【修復】は、壊れたものしか直せないハズレスキルだった。
新品は作れない。名剣も鍛えられない。見栄えのいい装飾品も仕上げられない。
任されるのは、戦場帰りの黒焦げの盾、持ち主の名もわからない折れた槍、誰も触りたがらない血錆びた武器ばかり。
そんなある日、ルカは勇者アレクが魔王を討った聖剣の修復作業に立ち会う。
王国中が「完全に修復された」と信じる聖剣。
明日の凱旋記念式典で、国王の隣に飾られるはずだった王国最高の遺物。
しかしルカだけは、その刃の奥に黒いひびを見た。
そこから聞こえたのは、勇者を責める声ではなかった。
『勇者は悪くない』
『でも、俺たちはいた』
『勝利の歌に、俺たちの名前はなかった』
聖剣は魔王だけを斬ったのではない。
勇者を英雄にするため、王国史に都合の悪い無名の兵士たちの名前まで斬り落としていた。
真実を口にしたルカは、王宮工房を追放される。
送られた先は、北東の果てにある捨てられた辺境工房。
そこにあるのは、壊れた武器と、忘れられた遺物と、誰にも届かなかった最後の願いだけ。
折れた騎士剣。
一度だけ主を守りたがっている盾。
呪いを抱えた槍。
焼け残った手紙。
名前を削られた欠けたナイフ。
ルカは知る。
自分の【修復】は、ただ壊れたものを元通りにする力ではない。
壊れた遺物に残った“最後の願い”を、もう一度だけ届かせる力なのだと。
これは、壊れた武器しか直せないと笑われた灰かぶり修復士が、辺境の廃工房から始める物語。
英雄譚に残らなかった者たちの声を拾い、
王国が隠した戦争の真実を暴き、
やがて最強の遺物修復ギルドを作り上げる。
元通りにはできなくてもいい。
最後の願いだけは、俺が届ける。
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